日本天文学会について

  1. ホーム
  2. 日本天文学会について
  3. 会長挨拶

会長挨拶

English

太田耕司(京都大学)2025年6月

日本天文学会会長 太田耕司(京都大学)

この度、日本天文学会会長を務めることになりました太田耕司です。主に可視・赤外線・電波観測等による銀河の観測的研究を行っていますが、活動銀河核や超大質量ブラックホールとの共進化等にも取り組んできました。最近はマルチメッセンジャー天文学にも関心を持っています。2021年に本学会の副会長を拝命した際に「では、最後の御奉公と思って務めさせて頂きます」と言ったのですが、なぜか最後になりませんでした。会長という重責に応えられるかあまり自信がありませんが、皆様のご助力を頂きながら天文学会の一層の発展のために微力ながら尽力する所存ですので、よろしくお願い致します。

私が初めて天文学会の年会に参加したのは、 1984年5月に東京の調布で開催されたものであったように思います。会場は既に2会場でした。最近は10セッション程が並行して開催されていますので、相当な増加と思われます。会長就任にあたって、年会や会員数の増加の様子を調べてみました。1982年の天文月報(第 9号 椿・中尾)に 1960年から1980年の20年間の年会講演数・会員数の推移が載っており、見直してみました。20年の間にどちらも増加していますが、面白いことに、講演数や会員数の増加を線形でフィットした式が載っています。春と秋の年会での合計講演数は、9.88(西暦-1960)+113.2だそうです。フィットの様子はよいので、これをエイヤと 2024年まで外挿してみると、745程になりました。現在は発表スタイルには、a、b、cと3種類ありますし ZOOM講演もありますので、単純に比較するのは難しい面はありますが、最近数年の全講演数は 1100から1200あるいは時には 1300程度の時もあります。外挿以上の講演数であり、多くの研究成果が発表されていることがわかりました。

一方、会員数はどうでしょうか? 1960年から 1980年の 20年間の特別会員(現在だと正会員とみなしてよいと思います)数は、16.36(西暦-1960)+202.2だそうです。これを 2024年に外挿すると1249人となりますが、2024年 3月末での正会員数は 2314人なので、こちらも昔の 20年間の発展を外挿した数字より随分伸びていることがわかりました(講演数を会員数で割った、speciyc講演数がどうかは考察してみてください)。

1960年から 1980年というのは天文学が非常に大きく発展した時代と思いますが、その後の 40年の日本天文学会の発展はこれを上回る勢いのように見えます。しかも、発展は数だけではないと思われます。セッションの名称や発表内容を見ていても、研究対象・分野の拡大も印象的だと思われます。系外惑星やその環境の研究の進展も目覚ましく、地球物理学等の分野との境界領域が発展しているように見えます。しかも地球外生命の研究にもつながり、生物学の分野との連携も期待されます。また、重力波や超高エネルギーニュートリノによる宇宙の研究も始まり、従来の天文学との連携も進みつつあります。電磁波だけではない、いろいろな宇宙からの「メッセンジャー」を使った天文学研究という意味で、マルチメッセンジャー天文学と呼ばれています。(宇宙線や隕石等もメッセンジャーと思いますが、この用語は最近使われるようになったようです。)謎のダークエネルギーの正体に迫ろうという目標の下で遠方銀河の観測が進められたりもしています。等々、いろいろな分野との連携による研究が進展しているように見えます。今後の天文学もこのような隣接分野との連携によってますます広く発展していくだろうと期待されます。思いもよらない新しい分野が拓けてくるかもしれません。日本天文学会としても、このような進展を支えていく必要があると思われます。

一方で、このような成果を社会に発信することや、次世代の研究者の育成も重要です。日本天文学会定款の第 4条には、「本会は、天文学の振興及び普及を目的とする。」とあります。年会に付随した公開講演会、七夕講演会、講師紹介、インターネット天文学辞典等々の活動を実施していますが、これらはこの目的達成の役割を果たしていると思いますので、今後も積極的に進めるべきものと思われます。また、春季年会ではジュニアセッションが開催され、既に25年もの歴史があります。私自身は最近になってようやく何度か出席した次第ですが、高校生によるユニークでバラエティに富む研究課題、熱心な取り組みには非常に感心させられています。

このような、日本天文学会の活動を(むろん、触れなかった PASJや天文月報等も非常に重要です)、今後も進展させていかなければなりません。これらの進展を改めて見直しますと、やはり会員の皆様のご尽力が一番重要であることは明らかです。皆様どうぞよろしくお願い致します。