日本天文学会について

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会長挨拶

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梅村 雅之(筑波大学) 2019年6月

日本天文学会会長 梅村 雅之(筑波大学)

このたび、日本天文学会第50代の会長に就任いたしました。伝統と格式ある日本天文学会の会長という重責を担うに当たり身の引き締まる思いです。日本天文学会は、天文学の振興と普及という精神に則り、110余年の長きにわたり天文学の発展に資する活動を行ってきました。日本天文学会に期待される大きな役割は、天文学の発展の下支えとなる研究の支援と天文学の教育普及活動です。

天文学はいま、かつてない躍進の時代を迎えようとしています。天文学は、古代より自然への知的探求心の発露として、また農耕に欠かせない暦法構築の手段として、数千年にわたり人類の文明と共に発達してきた最も歴史のある学問の一つであり、人類の自然観や価値観、哲学にも大きな影響を与えてきました。

長い天文学の歴史の中でも、20世紀は発見とパラダイムシフトによる天文学の体系の大成の時代であったと言えるでしょう。1916年には一般相対性理論が誕生し、宇宙全体を数理的に記述する枠組みができあがり、重力波やブラックホールの存在も予言されました。そして、1924年には天の川銀河の外に銀河があることが明らかとなり、その数年後に宇宙の膨張が発見されました。これは、人類の宇宙観の急激な拡大につながるとともに、1946年のビッグバン宇宙論の誕生というパラダイムシフトをもたらしました。1957年には人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げが成功し、宇宙開発時代の幕が開きました。(私は、ちょうどこの年に生まれました。)その後、1963年にクェーサー3C273が認識され、1965年の宇宙マイクロ波背景放射の発見、1967年のパルサーの発見、1973年のガンマ線バースト現象の発見と続きました。1992年には宇宙マイクロ波背景放射の非等方性が初めて確認され、宇宙構造形成に関する基礎的な理解が確立しました。そして、1995年にはペガスス座51番星に太陽系外の惑星が発見され、これを皮切りに数千にのぼる系外惑星が見つかり、惑星系の多様性が認識されると共に、アストロバイオロジーに実証的な展望を与えました。さらに、1998年とその翌年には宇宙の加速膨張が確認され、宇宙の全エネルギーの大半を占める暗黒エネルギーの存在が明らかとなりました。このようにして、20世紀に起きたパラダイムシフトは、現代天文学の体系の骨格を作り上げたと言えます。

そして、21世紀は、観測技術の長足な進歩とコンピュータ性能の飛躍的向上により、これまでとは質的に異なる新たな飛躍の時代になろうとしています。現在、地上およびスペースにおいて、ミリ波・サブミリ波、可視・赤外線、紫外線、X線、ガンマ線に至るあらゆる波長帯において、最新技術の粋を尽くした実験・観測技術により、これまでにない高い感度と分解能で、天文現象の観測が可能となっています。一般相対性理論の予言を証明した2015年の重力波の検出と本年2019年の超巨大ブラックホール初撮影はその成功例であり、天文学の新たな地平が拓かれました。さらに、宇宙探査機や宇宙ステーションによって、太陽系天体の詳細な画像データやサンプル解析による直接的なデータの取得も可能となっています。そして、コンピュータの飛躍的な発展は、物理第一原理に基づく天文現象の計算を可能にし、観測と直接比較できるほどの質的向上をもたらしました。同時に、機械学習や深層学習技術の急速な発展により、人間の分析能力を超えたデータ解析も可能になっています。私は、このような歴史的発見と飛躍の時代に、天文学に関わってこられたことを大変幸せに感じています。

天文学はいま、かつてないビッグサイエンスになっています。大業を成すには、"天地人"が必要であるとよく言われます。天地人は、かつては自然界の森羅万象を意味し、華道では天地人の調和こそが自然の摂理であるとして不等辺三角形で表し、孟子は「天の時、地の利、人の和」が事の成就に必要であると説きました。天文学の飛翔の現代は、まさしく"天の時"であり、最新の技術を駆使した実験・観測装置や高性能コンピュータは"地の利"と言えます。そして、なくてはならないのがビッグサイエンスに関わる人々の協働であり"人の和"です。日本天文学会は、総会員数が3、000名を超える学会です。この中には、研究者、教育者、アマチュア、法人・団体など、様々な立場で天文学に関わる方々がおり、天文学会の事業での協働や情報交換は、天文学の発展の下支えになっています。これは、天文学会における"人の和"の上に成り立っているものです。日本天文学会の事業は、年会の開催、学会誌、欧文研究報告誌、学術図書、インターネット天文学辞典等の刊行、アマチュア天文学者の活動支援・顕彰、国際天文学連合等との連携など多岐にわたります。そして、昨年度より、我が国の天文学の発展にとって貴重な史跡・事物を認定する日本天文遺産、天文学の教育と普及に貢献された方を表彰する天文教育普及賞も創設されました。私は、これらの事業を通じて、日本天文学会が天文学発展の"天地人"の一助となれるよう学会の運営に当たりたいと思っています。

10数年前から、私はつくば市内の小学校で、毎年4年生に天文学の講演をしています。話が終わると、ほとんどの子供たちが一斉に手を上げて、次々に質問をしてきます。子供たちの質問は、想像力溢れるものばかりで、みな目を輝かせています。現代社会は、ハイパー・メリトクラシーの時代であると本田由紀氏は言っています。これまでの社会において必要とされてきた学力は、知識量、技能、順応性などの「基礎学力」でしたが、今日の社会が求める学力は、表現力、課題発見能力、多様性、個性、能動性、コミュニケーション能力といった、より本質的で情動に根差した「生きる力」であり、これを必要とする現代を"ハイパー・メリトクラシー(超業績主義)"と呼んでいます。日本天文学会は、天文教育フォーラム、ジュニアセッションなどを通じて日本天文教育普及研究会とも協働し、若者たちへの天文学の教育と普及にも力を入れています。天文学を学び知ることによって、若者たちが「生きる力」を高めることができるならば、望外の喜びです。

日本天文学会会長 梅村 雅之(筑波大学)

時々、なぜ天文学をやっているのですか、どういう役に立つのですかという質問を受けることがあります。私は、同じ質問を、音楽をやっている人にしているのを聞いたことがありません。私の理解では、音楽は人間の感性が無意識に求めているものだからだと思っています。多くの人が、天文学を楽しみ、宇宙の真理に胸躍らせ、そこに夢や感動を感じ、生きる力になるのであれば、それは"天文楽"と言えるものになるかもしれません。

会長就任にあたり、微力ではありますが、天文学の発展のため精一杯務めさせて頂く所存ですので、皆様のご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。